次の日の朝、僕たちはみんなでイーノックカウに行くのに乗ってくお尻の痛くならな馬車に荷物を積んでたんだ。
「あれ? お父さん、なんでいつも森に持っていく武器を馬車にのせるの?」
「あっ、キャリーナ姉ちゃん。お母さんのおっきい方の弓ものっけてるよ」
僕たちがイーノックカウに行くのって、僕が買った居住権ってのをと登録するためだよね?
ベニオウの実を採りに行くから森には入るんだけど、イーノックカウの森には弱っちい魔物しかいないでしょ?
だからそんなのいらないはずなのにお父さんたちがいつも使ってる武器を馬車にのっけてるもんだから、僕とキャリーナ姉ちゃんは何でそんなのを持ってくの? って聞いたんだ。
そしたらお父さんは、もしもの時の為にだよって。
「前回家族でイーノックカウに行った時、行きの道中で野盗に出会っただろ? 今まではそんな事は一度もなかったが、もし同じような事が、それもこの間襲って来たやつらよりも規模の大きい野盗が現れたりしたら、予備の武器じゃあ少々心許ないからな」
「それにイーノックカウでも、ポイズンフロッグの発生なんて事件があったでしょ? あの時、もしいつも狩りに持って行く弓を持って行っていたらギルドにわざわざ用意してもらう必要もなかったもの。そのことを考えると、念のためにね」
僕が買った居住権ってのの登録はギルドだったら冒険者ギルドでも錬金術ギルドでもできるらしいんだよね。
でもね、僕もそうだけどお父さんたちのギルドカードは冒険者ギルドのでしょ?
だからやっぱり冒険者ギルドでやってもらう方がいいよねって事になったんだけど、ギルドに行くって事はまたもしなんか困った事があったら助けてって言われちゃうかもしれないもん。
お父さんとお母さんは、もしそうなっても大丈夫なように武器を持ってくんだってさ。
「それにいつも魔物の素材を売りに行く時と違って、今回は荷台にはほとんど何も積んでいかないからな」
「だったらさ、なんでお父さんたちのだけ持ってくの?」
「そうだよ。私たちのは持ってかなくてもいいの?」
僕は魔法で魔物をやっつけるから要らないけど、キャリーナ姉ちゃんは武器が無いと狩りができないでしょ?
だから何でお父さんたちの武器だけなの? ってキャリーナ姉ちゃんが聞いたんだけど、そしたらそれを聞いたお父さんは笑いながらそこまでは必要ないからだよって。
「ああ、それは大丈夫だ。いくら問題が起こったとしても、そこはイーノックカウの森での事だからな」
「そっか。こないだ出たポイズンフロッグだって、魔法で全部寝ちゃうくらい弱っちかったもんね」
イーノックカウの森にいる魔物は、グランリルの森の魔物よりもすっごく弱っちいでしょ?
だから家族全員で狩りに行かないといけないくらい大変な事なんで、あの森では起こるはずないよってお父さんは言うんだ。
「ただ、前に出た幻獣が出ているというのなら、ルディーンだけはまた一緒に行ってもらわないとダメだろうがな」
「うん、いいよ! 幻獣が出たら、すっごい魔法でやっつけちゃうね」
いつもの狩りだと、すっごい魔法は使ったら素材がダメになっちゃうから使えないでしょ?
でも幻獣には魔法しか効かないし、素材も何でか知らないけどやっつけた後にそれだけ残るから、いつもは使えないすっごい魔法を使う事ができるんだよね。
「こないだは土の魔法でやっつけたけど、今度は他の魔法でやっつけてやるんだ!」
「あ〜、期待しているところ悪いんだが、多分そんな事にはならないと思うぞ」
だから、次に幻獣が出てきたら今度は違う魔法でやっつけてやるんだってふんす! と気合を入れたんだけど、そんな僕にお父さんは、多分幻獣をやっつけに行くなんて事は起こらないよって言うんだよ。
「え〜、なんで?」
「そもそも、この周辺の土地に幻獣が出たのなんて、俺が知る限り初めてだからなぁ。そんなに頻繁に出るもんじゃないだろう?」
そっか、いっつも出てくるんだったら、幻獣をやっつける武器は冒険者ギルドにあるはずだもん。
でも、イーノックカウに置いてある魔法の武器は領主様のとこにあるから、こないだは貸してくださいってわざわざ言いに行かないとダメだったんだよね。
って事はお父さんの言う通り、幻獣がまた出てくるなんて事、多分ないんだろうなぁ。
「そっかぁ、出ないのかぁ」
「落ち込まなくても、活躍の場ならあるだろ? なにせルディーンの魔法が無いと、ベニオウの実を採る事ができないんだから」
そう思ってしょぼんとしてたらお父さんが、僕の魔法が無いとベニオウの実が採れないじゃないかって笑ったんだよ。
「そういえばそっか。うん! 僕、頑張ってベニオウの木に登るとこ、作るね」
「おお、頼むぞ」
お父さんに頑張るよって言って笑ったら、お父さんはニカッて笑いながら僕の頭をガシガシって撫でてくれたんだ。
「わぁ、すっごくおっきい生ハムだね」
足の形のまんまの生ハムは、イーノックカウの宿屋さんでもよく出てきてその場で切ってくれるんだけど、これはそんなのなんかよりもすっごくおっきいんだよね。
でもお父さんが持ってきた生ハムはそれよりもすっごくおっきかったもんだから、それを見た僕はすっごくびっくりしたんだ。
「なにせブラウンボアの後ろ脚で作った原木だからな。これ一本で80キロ近くあるんだぞ」
「そう言えばうちの村の食糧庫、手前にブラックボアの腿で作った生ハムが吊るしてあるものね。ブラウンボアの生ハムは一番奥に吊るしてあるからルディーンは見た事が無かったのね」
お母さんの言う通り、グランリルの村の食糧庫にはブラックボアの生ハムがいっぱい吊るしてあるんだよ。
だから奥の方は見えないんだけど、そっか、こんなおっきいのが吊るしてあるんだね。
「ブラックボアの生ハムだって、後ろ脚を使ったものなら30キロ以上あるからなぁ。そんなのがいっぱい釣ってあるんだから、食糧庫の入口から見ても、奥にあるこいつは見えないかもな」
「うん。僕、こんなにおっきいの、初めて見た」
ブラウンボアは前に一度お父さんたちと一緒にやっつけたから、すっごくおっきいってのは解ってるんだよ。
でもさ、足だけでも僕よりおっきいんだもん。
そんなおっきいお肉の塊、見た事無かったもんだからすっごくびっくりしたんだよね。
「でも、これだってブラウンボアの中では大きい方じゃないんだぞ」
「そうなの?」
「ああ。こいつは平均よりも少し小さめのブラウンボアの足で作ったやつだからな。本当の大物になると、あまりに大きすぎて生ハムにできないんだ」
お父さんたちのパーティはね、前に一度普通のよりもすっごくおっきいブラウンボアをやっつけた事があるんだって。
だから記念にその足を使って生ハムを作ろうとしたらしいんだけど、すっごくおっきくて重かったもんだから、乾燥小屋に吊るす事ができなかったそうなんだよ。
「塩漬けなどの作業は、軽くする魔道具を使えばできない事も無かったんだ。だけどな、流石に乾燥させる間もずっと魔道具を使い続けるなんて事、できないからな」
「それに長さも相当なものだったから、乾燥小屋の梁から吊るすと重さで耐えられない以前に、肉の先端が地面についてしまっていたでしょうね」
ブラウンボアはすっごく強いから、うちの村でもそんなにいっぱい獲れないでしょ?
だからそれ用の乾燥小屋なんて建てられないからって、そこで吊るせるのよりおっきなブラウンボアが獲れた時はあきらめてお肉にしちゃうんだってさ。
「そんな訳で、こいつはうちの村で作れる最も大きい生ハムって訳だ」
「でも、多分他のブラウンボアが獲れる森でも専用の乾燥小屋なんて作っている所は無いでしょうから、いくら小さめのブラウンボアの足で作ったと言っても、これを超える大きさのものはそうはないはずよ」
お父さんとお母さんはね、荷台に並んだ2本の生ハムの原木を手のひらでポンポンって叩いて、これならお金持ちのロルフさんやバーリマンさんでも喜んでくれるはずだよって笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ブラックボアとブラウンボアの足で作った生ハムの重さですが、本当ならもっと重いはずです。
というのも、豚って100キロくらいで出荷するらしいのですが、その足を使った生ハムは大体7キロから10キロくらいらしいんですよね。
でもボア系の魔物って、当然豚よりも足の筋肉が発達しているはずですよね? 突進して相手を攻撃するのですから。
ならばボア系の魔物の方が、体の重さに対する腿の太さの比率が豚より大きいはずなんですよ。
ただ、それだとこのブラウンボアの生ハム、100キロを大幅に超えていないとおかしいんですよね。(ブラウンボアの重さは1トンを超えるという設定です)
となると流石に力持ちのハンスお父さんでも持ち運べなさそうだったので、しかたなく、小さめの個体の肉を使ったという事にしました。
それでも普通の豚の生ハムの原木の8倍以上という、とんでもない大きさなんですけどねw